司会(山上)
どうもありがとうございました。(拍手)
それでは同じく自己紹介と現状についてのご報告をお願いします、班忠義さんお願いします。
班忠義
日本語ではハン・チュウギと申しますが、私は十数年前に日本に留学し、その間、多くの日本人の人たちが助けてくれました。また中国の性暴力被害にずっと取り組んできて、それも多くの日本人の支えでやってきたんですけれども、去年中国に戻りました。中国の現場でやりたいいろいろな取材とか調査、記録映画の撮影とかで中国に帰りましたが、おととい再び日本に戻ってきたんですが、私の感覚では日本に1年ぶりで帰っても外国に行った感覚がゼロと言ってもいいくらい、自分のふるさとのような感じですね。自分の家のような感じですけれども、ただここ最近、私たち中国と日本のこういう氷点下になった日中関係をすごく残念に見ています。それはいまの日本の小泉政権の強硬的な右翼化された対応が、中国人の怒りを買ったということですけれども、さっき韓さんの話にもあったようですけれども、韓国でもきちんと報道されていないと聞いて、中国と同じ現象があると思います。
韓国の場合は、民主主義の国で、たぶんいろいろ商業ベースでも報道の自由があるけれども、中国のほうはほとんど報道は国の規制があって、政府が許可した情報や事件だけ流すというような感じですけれども。ただ率直な感じ、ひとつ全体的にこの5〜6年間、中国側の報道と、日本が現実にやってきたことで、日本に対するイメージがとても悪くなったことは大きいですね。
正直に言いますと、前の白黒の映画から、私たち小学生時代の70年代、国交回復してからいきなり日本は平和の国となり、すごく人権的、発展的、民主的なそのようなイメージに、パーッとカラーの映画に変えてしまったんですね。
私たちは80年代に大学に入ったんですけれども、その時日本人に対する尊敬、あこがれがあって、日本に対して勉強したい、習いたいというような気持ちが強かったんです。中国に入ってきた日本人、むかし中国を侵略した旧軍人をふくめてとても友好的になった。そういう時代を私たちはみんな体験したんですね。
最近、小泉政権がいきなり靖国神社参拝をして右翼化になると中国人のイメージがまた変わったんですね。「いや、また白黒にもどった」「また軍備をこれから増強してまた戦争が始まるんじゃないか」と。日本人がむかしの好戦的なイメージがあっても、平和憲法で阻止されていて戦争が起こらないという安心感があるはずですけれども、今回そういうような掟がすべてなくて、隣でそういう歴史があって、再びそういう戦争が起こるのではないかと、そういうような危機感が強まったんですね。
このイメージ。つまり、中国のほうは報道も規制されているので、日本のなかでも反対、賛成がある、まあ反対の力が弱いけれども、そういうようなことが全然知られていないんですね。そうすると日本人のイメージはみんな悪いんだ、とくに今回の総選挙で、民主主義の中で小泉政権がこんなに勝ったので、日本全体が変わっているんじゃないかというような、そういうような感じがあったんですね。
正直申し上げますと、いまの日中関係は私の目から見れば100年前に戻ったような感じですね。100年前と言いますと日本の明治政権は軍事競争をしたり、中国を侵略したりというように、自分の国の民族主義が高まったんですね。
中国国内の問題は、共産党政権はいろいろ国内問題を抱えていて、民族主義を抑えたいけれども、日本に対する反日感情もあって、それを利用しようと思ってもできない。いざこういうデモが国内問題になると政府の政権が変わってしまう。とても難しい立場で、報道を規制したり、国民を納得させたりという政策を取ったりしました。とにかく、政府にも民間にも、日本の小泉政権が挑戦的な、挑発的な感じがあったことは事実ですね。(拍手)
司会(山上)
どうもありがとうございました。それではジャン・ユンカーマンさんに同じ質問ということでよろしいかと思いますが。ジャンさんはアメリカの出身でいまは日本在住ですけれども、アメリカの現状報告ということと、あわせて、実はジャン監督はこの映画とともにいま日本全国で話をして歩いていただいています。そういったところでもし何か感想があれば、日本国内の各地の方々の感想もふくめてお伺いできればと思います。
ジャン・ユンカーマン
まずはこの映画を作っているなかで、この班さんと韓さんみたいな立派な方々に出会うことができたのは本当に僕にとっては貴重なことで、うれしいことなんですね。
この映画を上映してまわったりしていると、いろんな反応が出てくるんだけど、この間、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映したあとで若い人のひとりがすごく正直に話してくれました。彼は「実を言うと、この映画を見終ってとても混乱している。混乱しているのは、ふつう憲法について言われていることと、この映画のなかで描いている憲法とは全然違うものだ」と言っていた。「どっちが正しいか自分のなかでは整理しきれないところがある」と言っていました。というのは、こういうような隣国の韓国の声、中国の声がなかなか日本には伝わってこない。日本の中からしか、こういう問題を見ないということになってしまうと思うんですね。隣の国々でも日本には平和憲法があるということをあまり知られていないということも、日本政府が誇りをもってこの平和憲法を実現しようとしていないということでもあるとは思うんです。その中で、そういうこともしないでアメリカの軍事戦略に従うばかりのことをやると、隣の国が怒ったり警戒して見るのは当然だと思うんです。とくに靖国神社なんかの問題が出てくるということで。
たまたま、一昨日だったんですが、太平洋戦争を開始してから60周年になっていたんで、15人くらいのジャーナリストと作家たちがとてもおもしろい行動を考えた。それは靖国神社へ行って、靖国神社に祀られている霊に、ひとりひとりに手紙を書いたので、僕も参加させていただきました。
とてもいろんなことを考えさせるような行動だったので、「ニイタカヤマ ノボルナ」(笑)というようなタイトルで、これをまとめたんですけど、やっぱりそこに行くと、ひとりひとりのことに向かって話すということは全然違ってくるんですね。靖国神社の問題とか、靖国神社が何を象徴しているかということとまったく別に、人間としてそこに亡くなっていて被害を受けた人たちを考えることにつながるんですけれど。
そのなかである一人のノンフィクション作家の吉田司さんが、松井石根ですか、南京大虐殺のとき最高司令官をやっていた軍人に向かって手紙を書いたんで、彼はいろいろ調べたなかですごくおもしろいことを見つけてわかった。それは、松井が南京大虐殺のあとに日本に帰ってきて、熱海に観音堂を自分のお金でつくった。そのなかに観音があって、右と左に遺碑を建てたんです。ひとつの遺碑は日本軍の犠牲者、もうひとつは中国軍の犠牲者のためのものなんですよ。とてもいまの靖国神社で考えられないような行動を自分からやった。
ということは、彼は自分でも日本軍が南京で許せないようなことをやったということを自分で認めていた。そういうような人がその軍隊の中にいたわけなんですけど、彼がそのあとに極東軍事裁判で死刑判決を受けた。死刑判決を受けたあとにこういうようなことを人に言ったらしい。「私だけでもこういう結果になるということは、当時の軍人たちに一人でも多く深い反省を与えるという意味で大変うれしい」ということを言っていたんです。
自分が死刑になったところで大変うれしい結果だと認めているのが、戦争が終わった直後に考えていたんですけど、それがいま60年たったところで日本政府に、日本の保守派の人たちがそれを認めることができないということは、とても残念だと思うんです。逆戻りになってしまったということなので。
観音堂の話を聞いて、大田さんが県知事だったときに沖縄で同じように、祈念のために摩文仁につくった碑には、全部名前が載っているんですね。沖縄、日本軍、沖縄の市民、アメリカの兵隊の名前もみんな載っているんですね。戦争が終わったところでそういうふうに反省してゆくしかないということだと思うんですね。そういう意味ではいろんなことを沖縄から学んでくるということなんです。
さっき山上さんがアメリカの事情を話してくださいと言ってたんですが、僕は最近あんまりアメリカに行っていないので、なんか良く分からないような国に(笑)なってしまったところもあるんですけど、2つのおもしろい話は聞きました。
1つはラムズフェルド国防長官がこの間中国に行ったときに、中国の人たちに向かって「あなたたちに対して何も脅威がないのに、何で大きな軍隊が必要なのか?」と聞いたんですね。ラムズフェルドから見れば中国に対して何も脅威はないんだけれど、中国から見れば何が見えるのか。沖縄にアメリカの海兵隊とか空軍とかあって、韓国にも基地がある。アフガニスタンにもウズベキスタンにも、イラクにも基地がある。あちこちの130何カ国にアメリカの基地があるんで、中国はアメリカの基地に囲まれているんじゃないか。
核兵器がまた中国に向けられているということで、中国のなかではその脅威を感じないということは考えられない、想像できないような状況なんだけど、ラムズフェルドから見れば、それが当たり前で全然脅威だとは認めることはない。というのはやっぱり、アメリカが太平洋を支配するというのが当たり前だと思っているのではないか。
もう1つおもしろい話を聞いたのは、最近沖縄で海兵隊の司令官が変わって新しいのが入ってきたらしいんですけれど、名前はちょっと記憶にないんですが、彼がインタビューで「海兵隊はどうして沖縄に今あるのか」と聞かれた時に、彼は「戦争が終わった時に米軍がここにいたので、そのまま残っていた」と正直に(笑)話したのね。そこまで正直に話すのは不思議だと思ったけど、別に理由はないんだけど、だだ残ってただけ。そのあとはいろいろアジアの平和を守るためにとか付け加えてたんですけど、実際には、アメリカ軍が日本に残っているというのはそういうことだと思うんですね。ただ、条件がいいんだ。
今度は7000人の海兵隊が沖縄からグアムに移るんで、日本がその移動費、建設費を出すという、それくらい条件のいい同盟の相手の国が世の中にはないんだということなんですね。(笑)だからそこを大いに利用してやろうということは、正直なことだと僕は思うんです。(拍手)
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