映画 日本国憲法
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司会(山上)
 ありがとうございました。韓洪九さんにご発言いただきたいと思います。韓さんは親日派の清算の問題などもやっておられます。平和博物館の建設の代表でもあると思いますけれども、韓国の現状、とくに若い人たちの現状についてご報告いただけますでしょうか。
韓洪九
 皆さんご存じのように、韓国はこれまで30年間くらい民主化運動が活発に行われてきました。もちろんまだ韓国社会は十分に民主化されているとは言い切れないと思います。しかしこれからも民主化運動をやっていく中で、過去に運動に携わっていた人たちがその運動を受け継いでこれからやっていくうえでいちばん大きな課題として思っているのは、人権や平和が保障される社会をどうやって作ってゆくのかというのがいちばん大きいことだと思います。

 いま韓国の憲法というのは1987年に、ちょうど民主化運動がとても活発に行われていた時期だったんですけれども、当時の軍事独裁政権を民主化運動が完全に倒したわけではなくて、未完全なまま民主化運動勢力と軍事独裁政権のひとつの妥協案として生まれたのが今の憲法です。そして、そういった妥協案としての憲法をこれからどうやって変えてゆくのかと思った時、その方向を決める時に、いちばん大きな課題と思われるのは、どうしたら平和というものを、より多くより良く、今の憲法に取り入れて発展させるかというのがいちばん大きな課題となっています。それはとくにイラク派兵のあとから、よりその議論が活発になっています。なので、私はこれから、これまで数十年間民主化運動をした経験やその成果に基づいて、やっとこれから憲法にどうやって平和というのを取り入れたらいいのかという議論をしていく、そういう段階に来ています。

 それに対して、日本は60年間そんなに大事に守ってきた平和憲法というのを、この時点において反対にそれを棄てようとしているわけですね。それを見ていますと、とても「どうしたんだろう」というような戸惑いがありますし、不安や心配でいっぱいです。
 韓国における民主化運動に私個人も少し関わってきたとも言えますが、とくに現在、国政院、国家情報院みたいなところの過去史の委員会で過去の民主化運動に対する研究調査・まとめなどをやっていますと、韓国の民主化運動は相当大部分が、日本の軍国主義が残していった残滓、その残りをどうやって克服するかということに関わる部分がいちばん大きいと思います。
 日本に来る数日前、水曜日ですが、とても大きな事件に対する調査報告をして来ました。それは人民革命党事件と言いますけれども、1975年に当時の朴正熙(パク・チョンヒ)政権が、8人を朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に関係する反国家団体としてでっち上げるという事件だったわけなんですが、その事件を調査しているなかでいちばん大きく感じたのは、当時の朴正熙の演説文や1970年代当時の時代的な雰囲気を見てみますと、どうも1930年代末から1940年代初期における日本社会の雰囲気にとても酷似しているというふうに感じられたわけです。
 それは、戦争を準備していくなかで非国民に入る人たちは容赦せず、どんどん除去してゆくというような雰囲気ととても似ていました。戦争を準備する社会が国民に要求する心構えというのは2つあると思います。一方では戦争に対する恐怖と、もう一方では敵に対する憎悪感の2つがあると思いますが、なぜ戦争に対する恐怖感も必要かと言いますと、その恐怖感から偉大な権力者、独裁者、軍隊に対する服従が生まれてくるからです。

 いま言いましたように韓国はある程度民主化が進み、先ほど大田先生がおっしゃったように南北関係も少しスムーズになっています。しかし過去の戦争に対する雰囲気、その時代的な雰囲気が作られたということで、いまだに人々の心のなかに憎悪の心が残っていて、それがいまだに韓国社会のなかで葛藤を起こしているんです。
 つい最近の韓国社会の葛藤のひとつの例なんですが、非転向長期囚という存在があります。非転向長期囚というのは、共産主義の思想をもってそれに基づいて活動していた人々で、昔の韓国の政府によって逮捕されて刑務所に入れられ、刑務所のなかで思想を転向したら出してやるという時に、それに屈せず転向しなかった人たちを呼びます。
 その人たちを、何と韓国政府は30年、40年間ずっと刑務所に入れっぱなしにしていたわけです。非転向長期囚の方々が30〜40年の刑務所の生活を終えてやっと出てきて、亡くなられた方が多いんですね。その亡くなられたあとに、その人たちを支えてきた友だちやサポートした人たちがそのお墓に碑を建てて、そこに「統一烈士」とその人たちの功績を称えるような文句を入れたんですけれど、それに反発した韓国国内の右翼がそこに行って、その墓や碑を破壊したりペンキで塗ったりしたとても悲しい事件が起こりました。このような非人道的行動というのは、いまだに戦争を準備している社会、あるいはいまだ戦争が終わっていない社会でこそ起こりうる事件だと思います。

 では、こういう脈絡で日本はほんとうに果して戦争は終わったのか、終戦と言えるのかという問いかけもできると思います。そういう問いかけが可能なのは、日本のなかで沖縄ではまだ戦争が終わってはいません。韓国でも戦争が終わっていません。私は最近ベトナムに派兵された韓国軍のことを調査しているわけですけれども、ベトナムにおいても戦争はいまだ終わっていません。ベトナムに派兵されてそこで戦闘をして戦友たちの死を目撃した人たちは、ジャングルのなかで自分たちに死が迫ったところとか、隣の戦友が死んでゆくその恐怖の記憶から抜け出せず、いまだに悪夢を繰り返しています。
 こういった状況のなかでも、日本がアジア太平洋戦争が終わったあとに国際社会やアジア社会のなかで受け入れられた、それが可能だったいちばん大きな前提となったのは、まさに平和憲法があったからだと私は思っております。だからアジアで戦争を起こした日本が、日本によって侵略された隣国に日本は「私たちは二度とあなたたちに戦争を起こしません」と約束をしたから、今のように韓国や中国と国交正常化したり、いろいろな紆余曲折はあるにしても基本的な親交関係に基づいた外交関係がいまだ続いているのは、それがあったからだと思います。
 こういった状況で日本がいま平和憲法をなくそうとしているのは、日本は再び戦争ができる国になる、日本の右翼はこのことを「普通の国」と言っていますが、それは結局また戦争ができるように、海外に派兵できるような国家になるということにほかなりません。こういうことを過去に日本によって侵略された経験のある隣の国々から見たときには、たとえば私を包丁で刺した人が、いまだに毎晩ていねいに包丁を研いでいるのを見てるような、そういう感覚でとても怪しくて危なっかしいというふうにしか受け止めることができません。

 平和憲法の問題は、場合によっては国家間における民族主義の問題としてとらえることができると思いますが、私は民族主義の問題というよりは民主主義の問題としてとらえたいと思います。日本国内における民主主義がうまくスムーズに作用していないので、右翼が再び表舞台に出てきたと思います。表舞台に出てきた右翼の力によって、憲法がいま改悪されようとしているんですが、皆さんは日本の国家、社会、そして皆さんの日常生活をどうか右翼の手から取り戻して、それこそ日本の民主主義を取り戻す、捉え直すということができればと思います。
 歴史的に、日本において平和憲法が制定されたり社会に根づいた過程においては、象徴天皇制がとても深く関わっていると思います。おそらく平和憲法が制定されなければ、太平洋戦争が終わった直後のアジアの隣国やアメリカは、日本の天皇制の存続をとても受入れられなかったと思います。自民党の今の憲法改正案を見ますと、天皇は日本国家の元首か否かとか、というような内容が含まれていると思いますけれども、それは正常な民主主義に基づいた立憲民主主義国家なのか、あるいは別の形の国家なのかという議論にもつながると思います。それは天皇が今の日本国家にとってなぜ必要なのか、あるいは平和憲法を変えて結局軍隊が持てるようになったら、軍隊の位置づけというのは戦前のように天皇の軍隊になるのか、あるいはまた別の位置づけになるのかというような、多くの議論を含んでいると思います。もしも平和憲法が改悪されて軍隊が作られたら、いちばん真っ先に破壊されるのは皆さんの日常生活だと思います。
 そして東アジアの安全、そして皆さんが宝物として持ってきた平和憲法が破壊されると思います。このように平和憲法の大事さを語ったあとに皆さんにひとつ提案をしたいと思います。それは、日本の平和憲法をユネスコに世界文化遺産として登録するのはいかがでしょうか。(会場笑 拍手)

 それは、平和憲法こそ全世界が一緒になって守っていくべきものであり、それが守られてこそ世界の平和が平和憲法によってまた守られてゆくと思うからです。世界の平和、とくにアジアの平和が関わっていると思いますけれども、皆さんさっきご覧になりましたジャン監督の映画の中にたくさんの世界の著名人やいろいろな人が登場するその方たちを筆頭にして、私ももちろん取り組みますけれども、皆さんと一緒に平和憲法をどうかユネスコの世界文化遺産に登録できるようにがんばっていければなあと思います。(拍手)
司会(山上)
 どうもありがとうございました。
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画 / 奈良美智「Missing in Action -Girl meets Boy-」(広島市現代美術館所蔵)
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