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「ノーム・チョムスキー イラク後の世界を語る」全文紹介
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A 9月で注目すべき第3の点、それは中間選挙キャンペーンの開始でした。これも関連があります。共和党の選挙運動本部長であり、ワシントン最大の実力者の一人、カール・ローブが昨年夏、党活動家達に漏らしたのは、選挙運動で社会・経済問題を前面に出してしまうと負けるということでした。というのは、(現政権の)社会・経済政策は国民の大多数にとっては弊害があり非常に評判が悪かったからです。そこで彼は、「安全保障に焦点を合わせなければならない。国民を脅えさせれば、破滅から国民を守るパワフルなリーダーであるとされる人物の下に国民は結集するだろう。そうすれば我々にも勝算があるかも知れない。」と述べたのです。この通りの展開になりました。

実に3つのことが一度にあったわけです。つまり、必要とあれば軍事力に訴えてでも恒久的に世界支配することを宣言した国家安全保障戦略、そして支配する価値のある無防備な国を侵略するテストケース、さらに、前世紀の進歩的な法律を〜文字通り、そして意識的に〜後退させる極端に反動的な内政政策課題をごり押しするために、ぎりぎりの政権運営を維持する努力を行なう。この3点ですね。内政政策課題は、非常に限られた一部の権力者の利益にかなったもので、非常に評判が悪かったのですが、国民を脅えさせることで切り抜けることは可能です。

イラクを使って国民を脅えさせたのですが、これはうまく行きました。政府による大規模なメディア宣伝があり、1ヶ月もたたないうちに国民の約60%がイラクはアメリカにとって差し迫った脅威であると思うようになったのです。イラクから防衛しなければならないということですね。このようなことはアメリカ国外では一笑に付されます。クウェートさえ信じなかった。事実、だれも信じていませんでした。ところがアメリカ国内では違った。

そして数ヶ月も経つと、国民の約半数かそれ以上が9.11もイラクが引き起こし、また新たなテロ攻撃を計画していると信じるようになっていました。こういった見方は、当然、戦争支持と密接な相関関係があります。これは無理からぬことです。つまり、恐ろしい国が我々を破壊しようとしていて、それが9.11の攻撃をしかけた国で、新たな攻撃を計画しているということならば、国を防衛しなければならない、ということですね。こうすれば戦争への支持をいくらかは得ることができます。多大な支持というわけにはいきませんが、いくらかは。

こうしたことすべてがあれ以降起きたのですが、今も続いています。共和党の党大会は、2004年の9月中旬まで延期されました。9.11のテロからちょうど3年経つ時期ですが、それが大統領選挙戦の開始となり、それもまた同じような戦略にそったものでしょう。事実、ローブは大統領選挙運動ではテロとイラクから国を守ってくれた偉大な戦時リーダー、ジョージ・ブッシュに焦点を当てて行かねばならないと公言しています。そうして、おそらくタイミングよく、また新たな退治しなければならない怪物が出てきて、我々はその怪物から防衛する必要が出てくるというわけです。つまり、政府が故意につくりだしている財政破綻は無視。また、これから社会保障や医療扶助や医療保険などの社会福祉事業の解体も(思惑通り)免れなくなり、企業権力という非常に限られた些か腐敗したセクターの手中に富を〜これまで以上に〜移すことになるが、それも無視。そして、国民を最悪の事態から守るのは我々(現政権)だということだけに注目。ということですね。

5月1日に対イラク戦勝が宣言されました。注意深い演出のもと、ブッシュは空母アブラハム・リンカーンに戦闘服に身をつつみ戦闘機で着艦しました。背景が海になるようになど空母の位置まで演出されました。まるで冗談ですが、冗談とはとられませんでした。例外は、これはイラク戦争の終結ではなく選挙運動の開始であると記事で指摘したウォールストリート・ジャーナルなどの冷静な報道機関くらいでした。巧妙に作られた戦闘服姿のカウボーイリーダーの下ごしらえですね。アメリカを破壊する寸前であったイラクからアメリカを守ってくれた彼がこれからもアメリカを守り、次の怪物からも国民を守ってくれるのだ、という筋書きです。

大統領戦の開幕だとしたのは正しい見方です。(2004年の共和党大会が)ニューヨークで9月中旬に開催されるのも偶然ではありません。共和党の広報担当組織がもうすでに大会の演出企画に入っていることは想像つきますね。隠し立てもせず意識的に進めています。公言しているくらいですから。ウォールストリート・ジャーナルのような良心的な報道機関はその点を指摘しています。そうです。こういったことすべてが実はつながっているのです。

内政プログラムをたたかれるのは深刻な問題です。彼等にとって重大問題です。中心になるのは大金持ちに対する減税です。富裕特権階級にとっては大きな節約になりますが、その他の国民にはほとんど何もなし。これは連邦予算の急激な増加とセットになっています。財政支出の多大な増加です。それは軍事費ということですが、いいですか、軍事費という隠れ蓑の下には通常はハイテク産業があるのです。ハイテク産業と軍事費への大幅な財政支出は、富裕層に対する減税がもたらす財源の大幅な削減とセットになっているのです。当然これは、いわゆる「財政破綻」につながります。

彼らのお抱えエコノミストがコストを予測しています。440億ドルの財政赤字を予想しています。これは未払い金による財政ギャップです。意図的なものです。フライシャー大統領報道官は記者会見でこのことについて「この440億ドルという数字は正しいのでしょうか。」と聞かれると、「正しい。」と答えました。そして、これはつまり、医療扶助、医療保険、社会保障給付金などについて議会が「責任」をとるということだとしました。この「責任をとる」というのは、進歩的な税制を導入して問題に取り組むということではなく、(こうした社会保障プログラムの)財源カットということなのです。

国民に面と向かって「一般国民に恩恵を与えるものをすべてカットするから選出してほしい。」とは言えませんが、「我々は差し迫った大災難から国民を守るために、これだけのお金を支出しなければならなかったのであり、そのために国民の望むことへの財源が全くなくなってしまった。残念ながら財政難なので責任をとらなければならないのだ。そのために賃金や給付金はカットしなければならない。いい思いをしている金持ちは見ないように。」と言えることは思いついたのです。
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