image
チョムスキー9.11 image
image
imageimage
「ノーム・チョムスキー イラク後の世界を語る」全文紹介
index
page of 6
Q 日本での反対もかなり激しいものでした。しかし日本政府は協力に反対だとする国民の意思を単に無視しました。
A すべての国がそうでした。
Q 日本の状況をどうお考えですか。どちらの方向に向かっていると思われますか。
A 日本については話しづらいですね。あなた方の方が私よりも日本についてはよく知っていらっしゃる。距離をおいて見ていると、分裂のようなものが起きていることがはっきりわかります。政府の政策は右傾化、つまり軍国主義化の方向に進んでいます。一方で国民は以前に比べよりオープンで自由になってきている。例えば、今回のような対話は5年、10年前の日本だったらほとんど想像できなかったでしょう。

私が日本を訪問するようになっておそらく40年ほどになると思います。私は世界各国へ行っていますが、つい最近まで政治についての講演やインタビューの申し入れが全くなかったのは世界で唯一日本だけでした。専門分野についてのインタビューはたくさんありましたし、講演なども行ないました。しかしここ数年、かなり変化がありました。そういう感じがしますね、一方では。

他方、国の政策をみますと、全く反対の方向に進んでいます。アメリカと同じです。アメリカも数年前よりもはるかにオープンになってきました。(私の講演に集まる)聴衆や読者の数も多いですし、依頼もかなり多い。反面、政府の政策はかなり右寄りになっています。数年前でしたら、突飛だとされたことが今では中道になっています。
Q 国民の反対がデモなどの形に発展するのに日本では少々時間がかかりました。しかし、実現してみるとそれはかなり強力で、歴史的にみてもかなりの参加者数でした。
A 時間がかかったとは言えないのではないでしょうか。考え方のずれだと思います。例えばベトナム戦争の頃まで振り返ると、最終的には大掛かりな抗議デモに発展しましたが、そこへ行くまでには開戦から6、7年くらいかかりました。1962年にケネディが南ベトナムへ空軍を派遣し爆撃を開始したのですが、そのときは反対の声はわずかばかりで人々の記憶にもありません。化学戦争プログラムを開始し農作物を破壊し、数百万の住民を戦略村、要するに強制収容所ですね、に駆り集めを開始したのはこのときです。抗議行動はありませんでした。抗議行動が大きく盛り上がったのは6、7年後です。

他の問題でもそうです。アメリカでは大きな反核運動がありました。1980年代初頭には国民の75%が支持していたと思います。これも何十年もの間、核戦争の大きな脅威にさらされてからのことでした。昨年10月ですが、最も衝撃的な歴史上の発見の一つがありました。イラクを攻撃するかどうか、そして国家安全保障戦略についてゴタゴタしている最中です。日本で報道されたかどうかは存じません。キューバ・ミサイル危機40周年記念の会合がハバナで開かれ、当時の主要な政策決定者がアメリカ、ロシア、キューバから集まりました。参加者にはロバート・マクナマラなどが名を連ねました。

ミサイル危機が、シュレジンジャー(歴史家)が述べたように「人類史上最も危険な瞬間であった」ということを1962年当時彼らが認識していたことは確かです。非常に危なかったことはわかっていました。しかし、それがどれほど危なかったか、はわかっていなかった。その会合で新しい事実が明らかになったのですが、当時、核魚雷を搭載したロシアの潜水艦が米駆逐艦の攻撃を受けていたというのです。2つの潜水艦の艦長が核弾頭のついた魚雷の発射を許可していたというではありませんか。核による迎撃に発展した可能性があったのです。そうなっていたら今私達はここにはいません。

ロシア潜水艦の艦長の一人が命令を取り消したということです。それほど危なかったのです。昨年の10月にわかったことですが、こういったことは一度ならず何度も起こり、それも非常に危ないこともあったようです。
Q 最後の質問です。映画を上映するとよく質問されるのですが、これほどまでに次々と事態が展開している真っ只中にどのようにして楽観的な感覚を持ち続けられることができるのでしょうか。
A 今日これまでお話ししてきたことが一つ。私の個人的な見解ですが、以前に比べ世界中の人たちの「文明度」が高くなってきたこと。いろいろなことに関心を持つようになってきたのです。問題点について真剣に取り組み、行動を起こしています。世界の重要な動きでまだお話していないことがあります。イラクの戦争への国際的な反対には前例が全くないということ。少なくともヨーロッパやアメリカでは歴史的に言ってこのように大規模な戦争への抗議運動が開戦前に起こったことはありません。普通ですと何年もかかります。

国際的正義を求める運動も前例がありません。世界的な広がりを見せており、国際社会の結束、南北の結束が多々見られます。重大な問題に関わりながら、懸命な努力が続けられています。非常に頼もしい展開ですね。

基本的に言って今の世界には2つの道があります。一つは、戦争、破壊、抑圧、先進的な業績をつぶすという方向。これははっきりしていますね。もう一つは、全く反対方向です。要はどちらが打ち勝つのか、ということでしょう。私達にはそれほど時間は残されていません。現時点では種の生存は危ういといわねばなりません。また火星人を持ち出しますが、彼らだったら人類の生存にそれほど高くは賭けないのではないでしょうか。
Q 私達次第ということですね。今日はどうもありがとうございました。
Prev
page of 6
index
翻訳についてお気づきの点がありましたら是非ご一報下さい。
このサイトのコンテンツ、データなどの無断転載、無断コピーはおやめください。
お問い合わせはこちらまで。
SIGLO
copyright