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私は記録映画を中心に映画の製作を続けている日本のプロデューサーです。今回どうしてもあなたに関する記録映画を作りたいと思い立ち、こうして手紙を差し上げた次第です。あなたにとって唐突で不躾なお願いになっているかもしれませんが、この手紙を最後までお読みいただき、ご一考いただきますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
私があなたに関する映画を作りたいと思い立った一番の動機は、2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロおよびその後のアメリカ合衆国のアフガニスタンに対する武力行使と、それに関するあなたの発言に触発されてのことです。
私にとって最もショックだったのは、ニューヨーク同時多発テロそれ自体よりも、その後のアメリカ合衆国のアフガニスタンに対する強権発動と、それに盲目的に追従し、論理的には日本国憲法第9条に違反していることを一部認めながらなし崩し的に軍隊(自衛隊)を派遣した日本政府の対応、そしてそれらの事態に全く無批判に支持報道を繰り返している両国の主だったマスメディアの在り方でした。(もっとも、私を含めた日本の市民社会が抱える政治に対する諦念と不感症こそが最初に問われるべき問題かもしれません。)
日本のテレビや新聞などマスメディアを通じて入ってくるアメリカからの当時の報道は(実のところ今も報道の在り方が変わったとは言いがたいのですが)、殆どが画一的で一方的なものであるように感じられ、私が欲しいと思う情報には程遠いものでした。
そんな時、9.11後に各国マスメディアによって行われた、あなたへのインタビュー記事を読む機会を得ることができました。そこでのあなたの発言を通して、歴史の流れの中に生き生きと位置づけて理解することのできる情報と、それに対するあなたの明晰な分析と主張に触れることができ、私は心から勇気づけられたのでした。
ベトナム戦争や東チモールなどに関するあなたの過去の発言や、表現の自由を擁護する毅然としたあなたの態度については多少知ってはいたのですが、9.11以降のあなたの発言に接しその一貫した主張に改めて目を見開かされました。
「今私に何ができるだろうか、映画のプロデューサーとして何をなすべきか」ということを考えていた私にとって、答えはひとつでした。あなたに関する記録映画を作りたい、そして私が触発されたあなたの“知識人”としての信念と事にあたる時の態度といったものを、この映画の上映運動を通して広く市民に伝えたいと思ったのでした。
(もちろんあなたの許可が得られるならということが前提ですが、)この作品はテレビ番組としてではなく、一般の市民によって地域のコミュニティや劇場で上映される映画作品として作られることが、私には重要な意味を持っています。自主的な上映運動によって設けられる映画の上映会場は、時として優れた議論の場となり参加者に実際の行動を促す場ともなるのです。
また奇を衒ったジャーナリスティックな情報番組としてではなく、映像表現としても優れた映画作品にする必要があると考えています。この映画製作は既成のマスメディア、特にテレビ報道に対する批評力を持つものでなければならないと思うからです。
例えば、テレビが繰り返し流し続ける、怒りの象徴として記号化されたニューヨーク貿易センタービル崩壊の映像などの資料映像は一切使わないつもりです。過去の資料映像はしばしば意図的なプロパガンダの傍証となり、私たちから自由な想像力を奪い去ってしまいます。
またこの映画製作は、ある程度緊急を要するものと考えています。アメリカの中であなたの発言に対する批判が強まっていると聞いていますし、ブッシュ政権の強権的なやり方のみならずそれに盲従し暴力(武力)にたよる問題解決の方向へと向かっている日本政府のあり方にも強い危機感を持っています。
この作品は基本的にあなたへのインタビューと講演(あるいは講義)の記録を中心にした1時間30分程度の映画にしたいと思っています。撮影項目としては、場所を変えてのあなたへの3回程度のインタビューとあなたの講演会か学生たちへの講義の模様、そしてあなたが仕事をしている日常の様子などを考えています。そしてこの映画はまず日本で公開することを第一に考えており、その後に世界各国での公開を目指すつもりです。
今回この映画の企画は映画監督であるジャン・ユンカーマン氏と共に進めているものですが、ユンカーマンおよび私のプロフィールについては、同封の別紙を参照いただければ幸いです。
この手紙をお読みいただき、私たちのこの映画製作の企画に基本的に賛同いただけるようでしたら、あなたに対するインタビューの質問内容や製作スケジュールなど映画製作の具体的な内容について更にご説明、ご相談したいと思っております。
あなたからの返事をお待ちいたします。
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2002年1月6日 シグロ・山上徹二郎 |
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