和泉さんの自宅にお邪魔して、これからの撮影について相談させていただく。太地のゴンドウクジラ漁と和田のツチクジラ漁の両方を撮影したいこと、乗船スタッフは四人までなど大枠のところを決める。打ち合わせの後、雑談で語った和泉さんの言葉が心に残る。 |
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和泉 | 「生きものを殺してますからね、そのことは、いつも忘れないようにしてるんです」 |
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その夜、スタッフを集めて、捕鯨砲を撃つ和泉さんの表情をできるだけ正面から撮りたいと相談する。スタッフはプロデューサーの林三津良とキャメラマンの一之瀬正史、撮影助手の谷中重樹という顔ぶれ。 |
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林 | 「どっから撮るの」 |
谷中 | 「別の船からですか」 |
梅川 | 「別の船からだと正面に入れないよ」 |
林 | 「正面に入るってことは鯨のいるところだぞ」 |
谷中 | 「撃たれますね、そこは」 |
林 | 「撃たれるね」 |
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黙って下を向いてる、キャメラマンの一之瀬。 |
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梅川 |
「とにかく正面じゃないと意味がないの」 |
谷中 |
「ヘリからってのはどうですか」 |
梅川 | 「撮りたいのは、和泉さんの顔だよ」 |
林 | 「望遠レンズでやるわけ」 |
梅川 |
「望遠だと相当、画は揺れるよね」 |
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こっくりとうなずく一之瀬。 |
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林 |
「大体、ヘリの音で鯨、逃げるんじゃねえか」 |
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はっきりとした結論を出せぬまま、翌朝、監督一人を残して、スタッフは東京に戻る。 |